資料:パレスチナの人びとへの連帯を表明するウクライナからの書簡

Author

Ukraine-Palestine Solidarity Group, Translated by @ukrainebokin

Date
November 2, 2023

■当noteからの紹介

10月7日のハマスの越境攻撃の後、ウクライナのゼレンスキー大統領が「イスラエルの自衛権を支持する」との声明を発したことは、世界の多くの人々を失望させた。その背景には、第一にウクライナがロシアの侵略に抵抗するために米欧の支援を必要としているという実利的な理由があるだろう。またウクライナの主流派知識人の中にある、ロシアの脅威を逃れてヨーロッパの一員となりたいという思いが、ヨーロッパ中心主義の内面化につながってしまうという構図もあるかもしれない。

しかし、左翼、進歩派の人々を中心に、パレスチナの人々の状況に胸を痛め、イスラエルと西欧諸国の二重基準に怒りを向け、自国政府の態度を恥とするウクライナの人々も、左翼グループ「社会運動」(紹介はこちら)の人たちをはじめ、少なからず存在する。そうした人々がまとめたのが、以下の声明である。23年12月10日現在、435人が賛同に名を連ねている。原文はウクライナのオンライン左翼メディア「コモンズ」に英語とアラビア語で掲載された。外部メディアによる翻訳にもリンクが張られている(スペイン語、イタリア語、ドイツ語、ポルトガル語、オランダ語、ギリシア語、チェコ語)。

原文はこちら。

https://commons.com.ua/en/ukrayinskij-list-solidarnosti/

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■パレスチナの人びとへの連帯を表明するウクライナからの書簡

私たちウクライナの研究者、芸術家、政治・労働活動家、市民社会の人々は、75年にわたりイスラエルの軍事占領、分離、入植者による植民地支配、民族浄化、土地の剥奪、アパルトヘイトにさらされ、それに抵抗してきたパレスチナの人々と連帯する。私たちはこの手紙を民衆として、民衆に宛てて書いている。政府レベルや、ウクライナ人とパレスチナ人の闘いを支援する連帯グループの間でさえ、主流の言説はしばしば分断を生み出す。この手紙によって、私たちはそのような分断を拒絶し、抑圧され、自由のために闘っている全ての人々との連帯を確認する。

自由、人権、民主主義、社会正義にコミットする活動家として、また両者の力の差を十分に認識した上で、私たちは、ハマスによるイスラエル人への攻撃であれ、イスラエル占領軍や武装入植犯罪者によるパレスチナ人に対する攻撃であれ、民間人への攻撃を断固として非難する。民間人を意図的に標的にすることは戦争犯罪である。しかし、それはガザの全住民をハマスと同一視することや、パレスチナ人に対する集団的懲罰、パレスチナの抵抗勢力全体に「テロ」という言葉を無差別に使用することを正当化しない。また、現在進行中の占領の継続を正当化するものでもない。一連の国連決議にもあるように、パレスチナの人々のための正義なくして、永続的な平和はあり得ないことを私たちは知っている。

10月7日、私たちはイスラエルの民間人に対するハマスの暴力を目の当たりにした。多くの人々が、この出来事に焦点を当てることで、パレスチナの抵抗を悪魔化し、非人間化している。ハマスは確かに反動的なイスラム主義組織である。だがこの組織が1980年代後半に生まれるずっと以前から、イスラエルがパレスチナの土地を侵食してきた。私たちは、この出来事を、数十年間にわたる、より広い歴史的背景の中で見る必要がある。

1948年のナクバでは、70万人以上のパレスチナ人が残酷に家を追われ、村々は破壊された。イスラエルは建国以来、植民地支配の拡大を決して止めなかった。パレスチナ人は亡命を余儀なくされ、分断され、異なる政権の統治下に置かれた。イスラエル国籍者として構造的な差別や人種差別を受けている人もいる。占領されたヨルダン川西岸に住む人々は、数十年にわたるイスラエルの軍事支配のもと、アパルトヘイトの対象となっている。ガザ地区の人々は、2006年以来、イスラエルによる封鎖に苦しみ、人や物資の移動が制限され、それにより貧困と困窮が拡大している。

10月7日以降、本稿執筆時点(注:23年11月2日)で、ガザ地区での死者は8500人を超えている。死者の62%以上が女性と子どもで、負傷者は2万1048人以上にのぼる。ここ数日、イスラエルは学校、住宅地、ギリシャ正教会、いくつかの病院を空爆した。イスラエルはまた、ガザ地区のすべての水、電気、燃料の供給を停止した。食料と医薬品の不足は深刻で、医療システムは完全に崩壊している。

欧米やイスラエルのメディアの多くは、これらの死をハマスとの戦いの単なる巻き添え被害として正当化しているが、占領下のヨルダン川西岸地区で標的となり殺害されたパレスチナ市民に関しては沈黙を守っている。2023年に入ってから、10月7日以前だけでも、パレスチナ側の死者はすでに227人に達していた。10月7日以降、占領地ヨルダン川西岸では121人のパレスチナ市民が殺害された。現在、1万人以上のパレスチナ人政治囚がイスラエルの刑務所に拘留されている。持続的な平和と正義は、引き続く占領の終結によってのみ可能となる。ウクライナ人がロシアの侵略に抵抗する権利を持つように、パレスチナ人には自決権とイスラエルの占領に抵抗する権利がある。

私たちの連帯は、不正義に対する怒りと、私たちが自らの郷土で経験している占領とインフラへの砲撃、人道的封鎖の壊滅的な影響への深い痛みから生まれるものだ。ウクライナの一部は2014年以来占領されている。国際社会は当時、ロシアの侵略を止めることができず、その軍事暴力の帝国的・植民地的性質を理解しなかった。その結果、2022年2月24日へとそれはエスカレートした。

ウクライナの一般市民は毎日、家でも、病院でも、バス停でも、パンを買うための行列のさなかにも砲撃を受けている。ロシアの占領によって、ウクライナでは何万もの人々が水も電気も暖房も使えない生活を送っている。重要インフラの破壊の影響を最も受けているのは、最も弱い立場にある人々である。マリウポリが包囲され、激しい砲撃を受けた数カ月間、人道回廊は存在しなかった。イスラエルがガザのインフラを標的にするのを目にするとき、イスラエルによる非人道的封鎖と占領は、私たちに強い胸の痛みを引き起こす。この経験に伴う痛みと連帯から、私たちは世界中のウクライナ人同胞たち、そしてすべての人々に、パレスチナの人々を支持する声を上げ、現在進行中のイスラエルによる民族浄化を非難するよう呼びかける。

私たちは、イスラエルの軍事行動への無条件の支持を表明するウクライナ政府の声明を非難する。民間人の犠牲を避けるべきだというウクライナ外務省による呼びかけは、遅きに失した不十分なものであると考える。これは、国連での投票を含め、ウクライナが数十年にわたって貫いてきたパレスチナの権利への支持とイスラエルの占領に対する非難という立場からの後退である。ウクライナ政府が西側の同盟国と同調した背景には、私たちが生き延びるためにこれらの諸国に頼っているという実利的な地政学的理由があることは理解しているが、イスラエルを支持し、パレスチナ人の自決権を否定することは、ウクライナ自身の人権に対する責任と自らの領土と自由のための戦いと矛盾していると考える。私たちウクライナ人は、抑圧者とではなく、抑圧に抵抗する人々と連帯すべきである。

私たちは、一部の政治家が西側のウクライナへの軍事援助とイスラエルへのそれを同一視することに、強く反対する。ウクライナは他国の領土を占領しているのではなく、ロシアによる自国への占領と戦っているのであり、国際援助は正しく、国際法の防衛に役立っている。一方、イスラエルはパレスチナとシリアの領土を占領・併合しており、これに対する西側の援助は不公正な秩序を認めるものであり、国際法との関係において二重基準を示している。

私たちは、米国イリノイ州でパレスチナ系の家族が襲われて6歳児が殺された事件に表れているような、新たなイスラム嫌悪の波に反対し、イスラエルへの批判をすべて反ユダヤ主義と同一視することに反対する。同時に私たちは、イスラエル国家の政治責任を世界中のすべてのユダヤ人に対して問うようなことにも反対し、ロシアのダゲスタン共和国における暴徒による航空機襲撃のような反ユダヤ主義的暴力を非難する。

また私たちは、米国とEUが戦争犯罪や国際法違反を正当化するために用いてきた「テロとの戦い」というレトリックの復活を拒否する。このレトリックは、国際安全保障システムを弱体化させ、数え切れないほどの死をもたらし、ロシアによるチェチェンでの戦争や中国によるウイグル人へのジェノサイドなど、他の諸国によって転用されてきた。そして今、イスラエルは民族浄化のためにそれを利用している。

行動への呼びかけ

――私たちは、国連総会決議が提示した停戦の呼びかけの実施を強く求める。

――私たちは、イスラエル政府に対し、民間人に対する攻撃を直ちに停止し、人道援助を提供するよう求める。私たちは、ガザに対する包囲を即時かつ無期限に解除し、民間インフラを復旧するための緊急救援活動を行うことを主張する。また、イスラエル政府に対し、占領に終止符を打ち、パレスチナの避難民が自分たちの土地に戻る権利を認めるよう求める。

――私たちは、ウクライナ政府に対し、ガザの民間人に対する国家公認のテロ行為と人道的封鎖を非難し、パレスチナ人の自決権を再確認するよう求める。また、ウクライナ政府に対し、占領下のヨルダン川西岸地区におけるパレスチナ人に対する計画的な襲撃を非難するよう求める。

――私たちは、国際的なメディアに対し、パレスチナ人とウクライナ人を対置することをやめるよう求める。苦しみの順位付けが、人種差別的なレトリックを永続させ、攻撃を受けている人々を非人間化する。

――私たちは、世界がウクライナの人々のために連帯してくれるのを目の当たりにした。私たちは、同じことをパレスチナの人々のために行うよう、全ての人に呼びかける。

(12月10日現在、435人の国内外のウクライナ人が署名している。署名はリンク先に)

https://commons.com.ua/en/ukrayinskij-list-solidarnosti/